新規事業を担当していると、リーダーシップのあり方や必要性というのは、痛切に感じるものです。
組織のリーダーがどのような発言をし、どのような行動をとり、どうやってチームメンバーのやる気を上げ、組織全体として目標を達成しようとするのか?メンバーはリーダーの一挙手一投足を見ているものです。
もしも、リーダーが自分の発言したことと矛盾するような行動をとったり、メンバーがあげた成果を横取りしたりしてしまうと、一挙にメンバーのモチベーションは下がり、リーダーは求心力を失い、組織として実力を発揮できなくなってしまいます。
そんなリーダーシップですが、果たして組織上、どういった人が発揮する(発揮すべき)スキルなのでしょうか?
いやそもそも習得できるスキルなのでしょうか?生まれ持った特性なのでしょうか?
こういった疑問にこたえるべく、行動科学や経営学や心理学などで長年研究されているのがいわゆる「リーダーシップ論」です。
リーダーシップ論について解説しようとすると、大量のページが必要になってしまいますので、ここでは、それらのすべてを述べるのではなく、そもそもリーダーシップとは何なのか?といった疑問に対して、ざっくりと定義や要件について解説してみたいと思います。
「リーダー」とは「先頭に立つ人」という考えは古い?
仕事をする上で「先頭に立ってリーダーシップを発揮する」とよく耳にしますが、具体的に「リーダーシップ」がある人というのはどんな人物を思い浮かべますか?
きっと多くの人は「優れた才能や資質を持つ選ばれた人物がその力を使ってグイグイとチームを引っ張っていく」ような人物を想像するのではないでしょうか?
一昔前は「リーダーシップ」という力を使う人物、つまり「リーダー」は文字通り「Leadする=率いる人」という考え方が主流でした。しかし近年この考え方は変化し、「リーダーシップは誰にでも、どんな人でも発揮できる」というのです。具体的にどういうことなのか、これからご説明します。
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ついてくる人がいないとリーダーとは呼べない
数年前に『もしドラ』という言葉が流行しましたが、覚えているでしょうか?
高校野球の女子マネージャーが経営学の本を読んで野球部を強くする、という何とも奇抜なアイディアと内容で話題になりましたが、その『ドラ』にあたるのが、『現代経営学の発明者』として有名な、オーストラリアの経営学者ピーター・ドラッカーです。彼はリーダーの定義として「付き従う者がいること」と述べています。
「付き従う者」と聞いて思い浮かべるのは親分と子分といった精神的・肉体的による主従関係ではないでしょうか?しかしドラッカーの言う「付き従う者」というのは決して強制力をもって従わせたのではなく、「あの人に付いていきたい!」という、あくまでも自らの意思に基づいて従う、自発的な意味合いなのです。日々仕事をしている中で、組織の仲間たちから支持と信頼を勝ち取った人物がリーダーと言える、とドラッカーは述べています。
組織の中には「あの人は有名大学出身だから」「前に〇〇部の部長だったから」「仕切り屋だから」などという理由だけでチームのリーダーになっている人がたくさんいます。
ですがそれは単に名ばかりで、実質そこにリーダーは存在していません。つまりリーダーには学歴・役職・年齢・性別といった「肩書き」も、仕切り屋・気立てがいいといった「性格」も、一切無関係なのです。
伝える力と、人のせいにしない覚悟が大前提
リーダーになる要件として肩書きや性格は無関係ということは先に述べましたが、では逆に必要なものとは一体何でしょうか?
ドラッカーは著書の中で、リーダーとは「目標を定め、目標に対しての優先順位の基準を決めてその体制を維持していく者」と説明しています。リーダーはチームとして達成しなくてはならない目標を作り、それを皆で共有する発信者にならなくてはいけないのです。
発信者となるために、リーダーには目標をわかりやすくメンバーに伝える力が必要になってきます。
またドラッカーはリーダーに対しても他のメンバー同様に、目標達成への努力と行動をすることを求めています。リーダーがどんな行動をとるのか、メンバーは常に見ているものです。リーダーが率先して行動する姿を見せることで、組織全体のモチベーションを維持・向上させることにつながるのです。
次に、リーダーになる要件として定義されているのが「責任を負う」ということです。
具体例として「失敗をひとのせいにしない」ことをあげて考えてみましょう。チームで目標に取り組むとき、必ずしも部下やメンバーの行動が成功するとは限りません。
思わぬ失敗や難題が振りかかることもあるでしょう。そんなとき真のリーダーは部下を責め立てることはしません。部下の失敗は自分の失敗と受け止め、部下の力に不信感や恐れを感じることなく、むしろ部下を励まし前に進ませることがリーダーの務めなのです。
「責任」の中には失敗を被ることだけでなく、数値責任であったり、発言責任というものもあるでしょう。
細かいことであれば、時間をきちんと守る、ということも「責任」になるでしょう。こういう小さな「責任」を負い、積み重ねていくことがメンバーからの信頼につながっていくのです。
誰だって「リーダーシップ」を発揮できる
ここまでリーダーの要件として「肩書き・性格無用」「目標を達成する努力を怠らない」「責任を負う」と述べてきました。ドラッカーの定義から言えば、この3要件を満たす人がリーダーであり、この3要件を実行することこそが「リーダーシップ」なのです。
リーダーの立ち位置・行動とは「組織の中でトップの役職に就く」ことでも「部下に威圧感たっぷりな態度をとる」ことでもありません。「自らのすべきことを成し遂げ、その行動に責任を持つ行動」がリーダーのあり方、つまりリーダーシップなのです。
この定義を理解すると、決してリーダーだけがリーダーシップを発揮するのではないことが分かります。たった一人のリーダーがリーダーシップを発揮したとして、チーム全員がリーダーシップを発揮する組織に敵うでしょうか?
チームのメンバー各自が各々の仕事に責任を持ってやるべきことをやれば、その成果は圧倒的に向上するのです。
リーダーシップとは社員の枠組みや年齢・社歴に問わず、組織を構成するどんな人でも持ち得る力であり、全ての人に求められる力なのです。
著者情報
工学系の大学を卒業後、大手通信キャリアでシステム開発、データ分析、マーケティング支援に従事。私費MBA留学し戦略コンサルファームに勤務。その後大手通信メーカーで新規事業立ち上げを10年以上。専門は新規事業立案、イノベーション、マーケティング全般。PEST分析やSWOT分析などのビジネスフレームワークの研修講師も担当。その他スキルに英語、ウェブ開発、動画制作なども。ブログは10サイト以上/ウェブサービスもいくつか開発経験あり。英語はTOEICは955点保持。結構変わった経歴だと思っています。詳しくはプロフィールをどうぞ。