時代と共に変わるリーダーシップ理論
リーダーシップとは「グループ内で先頭に立って引っ張っていくこと」というイメージが思い浮かぶ言葉ですが、リーダーシップ理論については時代につれて変遷を重ねてきました。
人々が求めているリーダー像がどういうものなのか?
今回は、時代の変遷を経て議論されたリーダーシップ論について、まとめておきたいと思います。
1. リーダーシップ特性論
古代ギリシャの時代から1940年代までは、その人の持つ特性がリーダーになるか否かの判断を決める判断基準とされました。
最も古典的なリーダーシップ理論として「リーダーシップ特性論」が挙げられます。この古典的な理論ではリーダーの特質は、生まれながらに持っているものであり、後から作られるものではないとしています。
古代ギリシャでは哲学者プラトンの「国家論」やイタリアルネッサンス期のマキャベリの「君主論」がこれにあたります。優れたリーダーに共通する身体的特質や性質、また行動の傾向などについて論じています。
プラトンは、ソクラテスを師匠に弟子にはアリストテレスがいます。プラトンは、言葉や事象に惑わされない心理について探求しました。
マキャベリは中世イタリアの政治思想家であり外交官でもありました。マキャベリの政治思想は、国家君主の力量により国家を統治することを示しています。「国家の土台に徳はない。良い武力と法律にある。」と説きました。
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プラトンの「国家論」では「英知に優れたリーダーが国を治める」ことを説き、またマキャベリの「君主論」では「計略や権数などに長けた人、つまり権謀術数に長けた人」が望ましいとされています。
リーダーがもともと持っている能力で、リーダーが選ばれた時代です。
19世紀に入ると「リーダーシップ偉人説」が台頭し始めます。
大英帝国の評論家であるトーマス・カーライルが発表したこの理論では、他者より優れた特質を持つ「偉人」だけがリーダーになる資格があるとの考えが示されました。この考えはその後長い期間にわたって「リーダーシップとは何か」を語る理論の主流となりました。
1930年に入ると「特性論」が出現し、リーダーとなる人に必要な特質が説かれるようになりました。
アメリカの心理学者ストックディルが表したのは「動機がハッキリしていること」「意欲的であること」「正直であること」「誠実であること」「自信があること」「知性的であること」「知識が豊富であること」ですが、それぞれの特質の判断基準が曖昧なため、理論の展開に限界があり長期には続きませんでした。
やはりもともと持っているリーダーとしての特質を、細分化して表しただけで、具体的にどうすることが良いのかを説いてはいません。
2. リーダーシップ行動論
1940年代から1960年ごろになると、その人の持つ特性ではなく「行動のあり方」がリーダーを選ぶ基準とされるようになりました。リーダーになる人は、共通の特質があると考えてきた人々には画期的に映りました。
リーダーとそうでない者の違いはどこにあるのか。また、どのような行動がリーダーを育てるのかに重点が置かれるようになりました。この考え方は、太平洋戦争後の1940年代後半のアメリカで、軍の維持や産業の集団で多数のリーダーが必要とされたことから、より効率的にリーダーを育成するために理論が提唱されました。
「リーダーに生まれるのではなく、リーダーになるための努力をする」この行動理論にも限界はありますが、多くの人にわかりやすく使いやすい理論であったため、今でもよく用いられています。リーダーは、もともと持っている能力だけではなく、リーダーとしてどのような行動をするかを人々が見てどの人がリーダーにふさわしいかを選択される時代になりました。
リーダーシップ特性論とは逆の立場でリーダーを捉えているということができます。
3. リーダーシップ条件適応理論
その後197年代には入ると、次第にリーダーシップ条件適応理論が衆目を集めていきます。
リーダーシップ条件適応理論はリーダーの特性や行動パターンだけではなく、状況的影響を考慮に加えた理論です。
この理論では、行動理論が示すすべての行動がいつも有効となるわけではなく、実施条件の変化により行動が有効であるか有効ではないかが変化するというものです。
リーダーシップ条件適応理論の代表的なものを2つご紹介します。
フィードラーのコンティンジェンシー理論
コンティンジェンシーとは「偶然性」「不確実性」「偶発的な出来事」「不慮の事故」の事です。
フィードラーのコンティンジェンシー理論というのは、変化する条件に合わせてリーダーシップスタイルを適応させる考え方です。組織の構造は環境により最適となる形式が異なるので、周囲の変化に応じて絶えず変化をする柔軟性が必要でありリーダーシップのスタイルも一様ではなく、現状に応じて変化に対応することが必要としています。
基本的にリーダーシップスタイルは、条件により変化します。 リーダーの最も苦手な同僚をLPC(Least Preferred Coworker)の概念を用いてリーダーにとって有利な状況や不利な状況を分析しました。これを計算式にすると下記のように表します。
業績=LPC×状況変数
ここではLPCは苦手とする同僚を指数で表します。苦手な同僚を好意的に評価するリーダーを「高LPC」、苦手な同僚を避けようとするリーダーを「低LPC」と定義しました。苦手ではあっても、この同僚を好意的に評価できるならば指数は高くなります。これを原因変数と言います。
一方の状況変数は、部下の信頼関係やタスクの明確性、リーダーが他者をコントロールする能力の高さで表します。
原因変数と状況変数の指数が高ければ、リーダーシップを発揮しやすい状況と見ることができます。またリーダーシップの発揮により業績=成果が上がるという結果に反映される可能性が高くなります。
ロバート・ハウスのパス・ゴール理論
ロバート・ハウスのパス・ゴール理論は1971年に提唱された条件適応理論の一つです。
ハウスはリーダーシップのスタイルを4つに分類しました。
指示型
メンバーに何を期待しているかをはっきり示し、仕事のスケジュールを設定、仕事の達成方法を具体的に指示するリーダーシップの型です。リーダーの考えが浸透しやすいので、賛同者が集まりやすくなる反面リーダーの考えが変わったり不信感が生じたときに組織が崩れやすいのが特徴です。
支援型
相互信頼をベースとして、メンバーのアイディアを尊重する、また感情に配慮してメンバーに気遣いを示すリーダーシップの型です。
メンバーと個別に信頼関係を構築しやすのですが、人間関係に左右され。大きな組織では時間的に組織の維持が難しいやり方ですね。
参加型
自らの決定を下す前にメンバーに相談し、メンバーの提案を積極的に活用するリーダーシップの型です。
個々の意見を把握しているので問題点の発見には繋が可能性が高まりますが、意見の収集に時間がかかることや異なる意見のすり合わせが必要になるのが課題です。
達成志向型
組織としての目標を設定し、その達せを最優先しメンバーに全力を尽くすよう求めるリーダーシップの型です。
常に目標達成に向けて行動するので、スキルアップに繋がるが過度なノルマやプレッシャーがかかりやすいと言われています。
パス・ゴール理論で示されているのは、リーダーが示す道筋「パス」とメンバーが達成を目指す目標「ゴール」についての考え方です。つまり、リーダーはメンバーが目標を達成できるようサポートすることを職務とします。メンバーが目標を達成する手助けをすることが組織全体の目標を達成することにつながるからです。そこで、リーダーは道筋を示す必要があるということです。
ここで必要とされたのはカリスマ的なリーダーで、目標を明確に示し、具体的な戦略を立て、成果がもたらす魅力つまり報酬を得ることを求められました。リーダーは部下・メンバーの個人的な特性を把握し、リーダーの行動を部下の特性に適合させていくことでよりリーダーシップが発揮できるということができます。
リーダーは、部下のマネジメントさえしておけば良いというところから、将来的なビジョンを描くことが求められるようになりました。つまり組織の現状維持ではなく、成長を求める未来志向になってきました。
また、リーダーの行動は条件下で変化を求められ、一定のマニュアルに添っているだけではうまくいかないことがわかってきました。
4. 変革的リーダーシップ理論
1970年代~1980年代には、変革的リーダーシップ理論と呼ばれる理論が出現しました。
変革的リーダーシップ理論は、ハーバードビジネススクール教授のジョン・コッターが提示したもので、ジョン・コッターモデルとも呼ばれています。
変革的リーダーシップ理論は、カリスマ的リーダーシップ理論と年代的には重なりますが、よりビジョンを求められているところが違います。
行動の変革をもたらすためには、リーダーがどのような姿勢で臨めばいいのかをとことん追求しています。企業が成長を続けるためには、変革を続けていくことが必要です。そのためには部下のマネジメント能力と合わせて変化に対応する、変革を起こす能力が不可欠であるという考えです。
優れたリーダーが、その魅力によって人々をひきつけ引っ張っていくだけではなく、未来の成長に向けてどのようなビジョンを持ち、そこに向かってどう行動していくのかが求められています。
リーダーシップの変遷まとめ
リーダーシップの研究と理論の変遷は、おおむね以下のような流れで移り変わってきました。
- (~1940年)リーダーシップ特性論
- (1940年代~1960年)リーダーシップ行動論
- (1960年代~1970年)リーダーシップ条件適応理論
- (1970年代~)変革的リーダーシップ理論 ほか
それぞれ、研究内容と研究成果は異なりますが、今に至るまで企業活動などにおけるリーダーシップを発揮する現場において、これらの研究から得られた示唆は広く広まっていると思います。うまく活用できているかどうかは別としてですが…。
組織としてのパフォーマンスを最大限発揮できるようになるためには、できればこれらのリーダーシップ理論とリーダーシップのあるべき姿やリーダーシップのスタイルというものに精通しておきたいものですね。
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著者情報
工学系の大学を卒業後、大手通信キャリアでシステム開発、データ分析、マーケティング支援に従事。私費MBA留学し戦略コンサルファームに勤務。その後大手通信メーカーで新規事業立ち上げを10年以上。専門は新規事業立案、イノベーション、マーケティング全般。PEST分析やSWOT分析などのビジネスフレームワークの研修講師も担当。その他スキルに英語、ウェブ開発、動画制作なども。ブログは10サイト以上/ウェブサービスもいくつか開発経験あり。英語はTOEICは955点保持。結構変わった経歴だと思っています。詳しくはプロフィールをどうぞ。