サウスウェスト航空の成功とビジネスモデル【古典ケーススタディ】

私がMBA留学をしていたときには膨大な数のケーススタディをやらされましたが、数多くのケースの中でもたいていのビジネススクールで必ずといっていいほど取り上げられる題材にサウスウェスト航空のケーススタディがあります。

それほど有名なケーススタディですが、アメリカの国内線の航空会社なので、日本では経営に関して興味がある場合を除いて、あまり知名度はないと思います。
近年では、LCCによる格安国内線の話題などもあって、サウスウェスト航空のように大成功を収める航空会社が出てくるのではないかとひそかに期待していますが、今のところ同社をロールモデルとして似たようなビジネスモデルや社風で成功しているようには思えません。
それでも、航空会社以外でも非常に参考になるところが多い会社ですので、ちょっと使いふるされている感はありますが、今回はサウスウェスト航空の成功とビジネスモデルを取り上げたいと思います。
では、さっそく見ていきましょう!

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※ちなみにケーススタディとは何かについての記事もありますので、興味がありましたらぜひご覧ください。
ケーススタディをやる意味や進め方。本当に知っていますか?

背景

アメリカは土地が広大で主要都市に回りにある地方都市への交通も航空機を利用することも多いということもあって、アメリカの国内路線には、地方空港と近隣の都市を結ぶ短距離路線と、主要都市間を結ぶ長距離路線がありますが、サウスウェスト航空がアメリカ国内航空路線市場に参入する以前は、国内航空は規制下におかれていて、いわゆる距離比例制運賃制度のため長距離路線がドル箱になっている状態でした。

そこで、長距離路線のドル箱を狙って、当時から大手の航空会社はハブ・アンド・スポーク方式で長距離と短距離を組み合わせて運航するしくみを作っていました。
ハブ・アンド・スポーク方式とは、大都市の大きな空港を中心とした就航路線のことです。大都市の周辺の地方空港から大都市の空港に乗客を集めることで、大都市間の長距離路線の空席を減らし、路線本数を最適化できる仕組みのことです。
似たようなしくみには、電話回線網や宅配業者の集配ネットワークなどがあります。これらのしくみも呼び方は異なりますが、基本的にはハブ・アンド・スポーク方式と同じ理屈です。

このように長距離路線でのウマ味を狙った結果、ハブとなる主要都市空港の需要がたかまって主要空港の空港利用料金は高騰していました。

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このような中、航空業界の規制緩和によって航空会社の新規参入と撤退が自由化されたことで、業界には、いくつかの環境変化がおきることになります。
一つ目は、価格競争の勃発です。これまでは政府の規制で自由な価格設定ができていなかったのが、自由化の結果、自社で価格設定ができるようになり、低価格をテコにした顧客の奪い合いが始まり、各社とも利益を確保することが以前より容易ではなくなってきたのです。
また、ハブ・アンド・スポーク方式によって複雑になってしまったフライトスケジュールをコントロールするため、予約システムが導入されたことも大きな環境変化でした。利益を出していくためには、いかにして空席を埋めるのかが、より重要な課題になります。そのためなんとかして顧客を囲い込むために、マイレージによる優遇制度を設けたりして、航空サービスそのものではないところが勝敗のカギをにぎる競争が始まっていたのです。

現状認識と発想の転換

サウスウェスト航空は市場参入にあたり、3つの小都市間の短距離路線で運航を開始します。その後、さらなる規制緩和で、複数の州への運航が狩野になった際、ハブアンドスポーク方式を取らず短距離に集中することにします。
地方都市間を直接結ぶことで、価格を低く抑えることができるというメリットもありましたが、地方都市の利用客には、目的地に行くためにハブ・アンド・スポーク方式での主要都市の空港での乗り換えが負担だったのです。
要するに、路線バスという位置づけにしたのですね。

サウスウェスト航空は、それでも低価格でも回転率を上げることで利益を上げることができるはずと考えました。これは牛丼店などの飲食店のビジネスモデルと同じです。
しかし、これは当時の業界常識はまったく考えられないことでした。これまで規制下でドル箱といわれていた長距離路線を捨て、利益が出せないと思われていた短距離路線だけに集中するというのだから、当然かもしれません。

対策

低価格で運航の回転率を上げるには、いくつかクリアしなければならない課題がありました。それがすなわち、ビジネスモデルに直結するのですが、それらは、1.ハブ空港を避ける直行便を開拓すること、2.コストを徹底的に削減すること、3.ターン時間を短縮することでした。

1.ハブ空港を避ける直行便開拓

ハブ・アンド・スポーク方式では、主要空港での高額な空港利用料が必要です。また、ハブ空港での乗り継ぎを行えば、着陸してから次の便が離陸するまでのターン時間が延びてしまうことは明白です。それでは、低価格で高い回転率を目指す方針とは逆行してしまいます。そこでハブ空港を避け、二番目に乗客が多い都市を結ぶ二都市間での直行便を開拓することにしたのです。

2.ローコスト体制

サウスウェスト航空のケーススタディで、もっとも注目され、かつ有名なのが、このローコスト体制です。コストを徹底的に削減ため、機体の統一、機内サービスの廃止、チケット予約の廃止が実施されました。

・機体の統一

サウスウェスト航空の機体はすべてボーイング737に統一されています。これにより保守部品の調達を一元化し費用削減できるだけでなく、整備作業や各種教育および各種ルーティング業務も一機種だけでいいので、慣れや学習効果による工数削減も含まれます。
ただ、面白いことに人件費だけは対象外です。これは、「社員第一、顧客第二」という社是が影響しているのだと思います。

・機内サービスの廃止

コスト削減の方針から、一般的に行われる機内サービスは一切ありません。しかし、別の意味での機内サービスが充実しています。つまり、日本では絶対考えらないような、機長やアテンダントによるジョークを交えたパフォーマンスです。このようなパフォーマンスは、サウスウェスト航空のファン作りに大きく役立っているのです。

・チケット予約の廃止

驚いたことに、サウスウェスト航空にはチケット予約がありません。すべて自由席です。国際便や日本での感覚だと信じられないことですが、航空業界の路線バスを目指すサウスウェスト航空では当然のことのようです。チケット予約を廃止することで、これまでハブアンドスポークで複雑になってしまった大手航空会社の予約システムをよそに、大幅なコストダウンが実現できるのです。

3.ターン時間短縮

運航の回転率を上げるために元も重要なのは、ターン時間の短縮です。ターン時間とは、飛行機が空港に到着してから、再び離陸するまでにかかる時間のことです。サウスウェスト航空の場合は、目標時間が15分と定められていて、これは大手航空会社の約三分の一といわれています。この圧倒的なターン時間を支えているのが、上記の二都市間の直行便であることと、すべて自由席であることと、機体が統一されていることであることは疑いようがありません。

決め手

これまで、サウスウェスト航空の成功要因を挙げてきましたが、決め手は何でしょうか?私は、空港サービスに対する品質の高さと顧客満足が決め手だと思います。
サウスウェスト航空は、顧客満足に対する方針として以下の3つをあげています。

1.定時出発率を高いレベルで維持すること
2.利用者にとっては迷惑なトラブルを可能な限り減らすこと
3.カジュアルでフレンドリーな会社のイメージを最大限に利用者にアピールすること

あるいは、上記の方針を社内に徹底することのできた、ケラハーの人柄というかキャラクターとリーダーシップのおかげなのかもしれません。

その結果、サウスウェスト航空はついに全米ビッグ6のひとつに数え上げられるようになり、短距離路線市場ではシェアNo1でいつづけ、業界でもっとも高い利益率をほこり、1973年以降これまで赤字がない唯一の航空会社(71年創業)でありつづけ、同時多発テロ時にもリストラしないでいられたのではないでしょうか?

まとめ

サウスウェスト航空のケーススタディは、あまりにも有名なので、すこしマンネリ気味かもしれませんが、新規事業の立ち上げや戦略の立て方、ビジネスモデルの考え方、顧客満足や品質に対するお手本など、いろいろな意味で大変有益なケーススタディです。
私も、いつの日か、こんなにすばらしいアイデアを考えて実現してみたいなと思って、いつも思い返しています。

著者情報

工学系の大学を卒業後、大手通信キャリアでシステム開発、データ分析、マーケティング支援に従事。私費MBA留学し戦略コンサルファームに勤務。その後大手通信メーカーで新規事業立ち上げを10年以上。専門は新規事業立案、イノベーション、マーケティング全般。PEST分析やSWOT分析などのビジネスフレームワークの研修講師も担当。その他スキルに英語、ウェブ開発、動画制作なども。ブログは10サイト以上/ウェブサービスもいくつか開発経験あり。英語はTOEICは955点保持。結構変わった経歴だと思っています。詳しくはプロフィールをどうぞ。

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