新規事業を考える上での重要な課題のひとつに、いかにして生き残るか、つまりどうやってライバル企業との競争に勝っていくかということがありますが、ライバル企業との競争という側面だけにフォーカスすると、勝つための戦いち方は比較的明確で、わかりやすいものです。
結局、これまでの業界の秩序を破壊して、自社に都合の良いあたらしい競争ルールを持ち込むことができればいいのです。
そうすることができれば、ライバル企業との競争を制して勝負に勝つことができます。
ただ、その競争ルールの破壊と創造がとっても難しいわけですが。
確かに難しいのですが、何もしないで手をこまねいているだけでは何も変わりません。過去の競争戦略の事例には、新しい競争ルールを作り上げるためのヒントがたくさん隠されているのも事実なのです。業界秩序が崩壊し、新しい競争ルールが出来上がるパターンを探してみてはいかがでしょうか?
そのようなパターンの中でも、「直販化モデル」は技術革新や市場ニーズの多様化をトリガーにして頻繁に起こり、古い競争ルールにしがみつこうとしてきた(またはしがみつかざるを得なかった)企業を撤退に追いやってくるなどして、業界のリーダーを交代させてきました。
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「直販化モデル」のパワーの源
具体的な事例としては、ダイレクトモデルでPC業界を席巻したDELL。文具業界の構図を塗り替えたプラス(アスクル)。アパレルメーカーによるSPAで大成功したユニクロ、ワールド、GAP。SONYの初代プレイステーションの大成功の影には、発売時のインパクトを最大化するため、卸を通さずしばらくの間は販売店への直接販売をしていたことがありました。YKKが冊子業界に参入したとき、卸を通さず直接組み立て業者に販売したことで、スムーズに市場参入できました。最近では、生命保険業界でもライフネット生命による直販化が、インターネットを使って業界にインパクトを与えようとしています。
特にインターネットが普及したことで、消費者と直接対話できる環境が整ってきた2000年代は、この直販化モデルで成功した企業が飛躍した年代でもありました。
まさに業界を問わず、普遍的な力を持っているのが「直販化モデル」なのです。
直販化モデルが破壊的な力を持っている4つの理由
では、このように業界構造を一変させ、新しい秩序を生む力を持っている直販化モデルですが、いったいどうしてこれほどのパワーをもっているでしょうか?
それは、1.価格メリットが高いこと、2.市場ニーズの微妙な変化に対応しやすいこと、3.供給側対して安心感が得られやすいこと、4.簡単に真似できないことが挙げられます。
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1.価格メリットが高いこと
卸販売を通して小売店で販売するような間接販売が中心となっている業界で直販化を行う場合、これまでかかっていた中間マージンの費用が圧縮されます。中間マージンとしては、手数料や販売促進費、仕入れ価格と販売価格の差額などがありますが、直販化モデルは、製造側がこれらの費用がかからないので購入者にとって大きな価格メリットを生み出すことができるのです。
2.市場ニーズの微妙な変化に対応しやすいこと
直販化モデルのメリットのひとつは、購入者と直接コミュニケーションが取れることです。販売店網を通した市場ニーズの動向把握では、時間がかかりすぎる場合があります。直販化モデルはそのようなタイムラグをなくし、市場ニーズの変化や多様化に敏感になれるので、どのライバル企業よりも先にチャンスをつかむことができるのです。
3.供給側対して安心感が得られやすいこと
商品の製造元から直接購入できることで、最新モデルを選ぶことができたり一部の悪質な販売業者にだまされないですむという安心感を与えることができます。さらに商品やサービスによっては、購入後のサポートも買うかどうかを決める判断材料になることがありますが、そういった不安をある程度取り除く効果があります。金額が高額になってくれば来るほど、そういう傾向が強まってくるものですが、直販化モデルはこれらの不安を軽減させることができるのです。
4.簡単に真似できないこと
直販化モデルが破壊的な力を持っている間接的な要因として、その業界には「直販できるプレーヤーがいない」ことがあります。これまでの間接販売という業界慣行や暗黙のルールを破ると卸業者や小売店からの反発が予測されるため、簡単に直販化を真似することができないのです。逆に言えば、販売網に依存していない業界で直販化モデルを構築しても、効果は限定的といえるでしょう。
「直販化モデル」の成功要因
それでは、直販化モデルが成功するための要因は何でしょうか?
それは、1.自社だけが業界のしがらみから逃れられること、2.不特定多数に対してアピールしやすいこと、3.安定したサービスを提供できることが挙げられます。
1.自社だけが業界のしがらみから逃れられること
ライバル企業も簡単に直販化できては意味がありません。自社だけが比較的業界のしがらみから脱出しやす状況でないと、簡単に真似されてしまい、もともと企業体力があるトップ企業の業界支配はかわらないことになってしまいます。自社だけが直販することができるのかを判断するためには、あらかじめライバル企業の販売店ネットワークとのしがらみの強さを検証する必要があるのです。
2.不特定多数の人に対して直接接触できること
直接販売するには、購入者とのインターフェースが必要です。これまで間接販売に頼ってきたということは、販売店ネットワークにこのインターフェースの機能を担ってもらっていたということです。そのため、広告で多くの人に認知してもらうだけでなく、購入者との購買プロセスも新たに構築する必要があるのです。インターネットなどを駆使して不特定多数の市場にアプローチできる方法を模索することが成功に欠かせない要素なのです。
3.購入者が自分で使用することができること
直接販売するためには、購入した商品やサービスを購入者自身で簡単に利用することができなければなりません。もし商品やサービスが複雑すぎる場合は、購入者にとってわかりやすくするため、一部の機能を制限するなどシンプルな仕様にするなどの工夫が必要になってきます。このような商品開発にかかわる一連の市場調査自体も、直販化モデルが成功するための条件だといえるでしょう。
4.安定したサービスを提供できること
直販してこれなかた理由は、業界のしがらみなどの販売面だけではなく、サポートやサービスの側面を販売ネットワークが負担してくれていたことを忘れてはいけません。安定したサポートはこういった保守サポート面でのトラブル回避だけではなく、ファン作りにもつながるものです。購入後にも安心してもらえるような仕組みは、かならず顧客満足を上げリピーターを開拓してくれるでしょう。
さいごに
「直販化モデル」は、新規事業のアイデアにぴったりだと思います。とくに他業界への新規参入には大変効果があります。新規事業の企画で、勝ちパターンのアイデアに困っているよでしたら、いちど「直販化モデル」を検討してみませんか?
著者情報
工学系の大学を卒業後、大手通信キャリアでシステム開発、データ分析、マーケティング支援に従事。私費MBA留学し戦略コンサルファームに勤務。その後大手通信メーカーで新規事業立ち上げを10年以上。専門は新規事業立案、イノベーション、マーケティング全般。PEST分析やSWOT分析などのビジネスフレームワークの研修講師も担当。その他スキルに英語、ウェブ開発、動画制作なども。ブログは10サイト以上/ウェブサービスもいくつか開発経験あり。英語はTOEICは955点保持。結構変わった経歴だと思っています。詳しくはプロフィールをどうぞ。