SL理論の4つのリーダーシップの意味と、実はそれほど単純ではない件について

リーダーシップには唯一の型はあるの?

従来のリーダーシップ論では、組織のパフォーマンスを最高に高めるリーダーのあるべき姿には「こうあるべき」という、最適な唯一のスタイルがあるものとして研究されてきました。
しかし、現実には部下の知識や経験、スキル、ヤル気のある無しなど部下のタイプは様々であり、チームのおかれた状況や場面によっても適切な接し方には、唯一の正解がないことが多いものです。

そんな、唯一のリーダーシップ像に異を唱える理論がSL理論です。
1977年、ハーシーとブランチャードは、部下の成熟度によって有効的なリーダシップスタイルはそれぞれ異なるものであり、それぞれの状況に応じてリーダシップスタイルを変える必要があるという考え方を唱え、これがSL理論(Situational Leadership Theory:条件適合理論)です。

SL理論とは

有効的なリーダーシップスタイルには、いくつかの代表的な状況や場面によって、発揮すべき志向性が違うというのが、SL理論の基本的な考え方ですが、では、どういったときに、どういったリーダーシップがあるのでしょうか?
SL理論では、主に部下の業務スキルや目標達成のパフォーマンスの度合によって、リーダーのあるべき姿を規定しているのが、特徴です。

そこで、SL理論では、部下へのリーダーシップの種類を部下への業務指導に対する姿勢と人間的な支援に対する姿勢の2つの軸でわけ、縦軸を「仕事志向(業務指示の必要性)」、横軸を「人間志向(コミュニケーションの必要性)」とし、部下の成熟度から1.指示型、2.説得型、3.参加型、4.委任型 のカテゴリーに分類したものです。

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1.指示型リーダーシップ(部下の成熟度:未成熟な場合に適用)

仕事の達成志向が高いが、人間関係を充実させる志向は低いリーダーシップのことを指示型リーダーシップと言います。

例えば、新人や他業種から転職してきた社員は必要なスキルが不足していると想定されますが、そんな時、部下としては当然リーダーを頼ることになるはずです。
この場合に有効なリーダーシップは、仕事を熟知しており、部下に対して目標達成に至るまでの道順を具体的に指示をし、行動を促すことができる事が必要と考えられるでしょう。

もちろん、部下は、不慣れな業務で失敗して落ち込んだりすることもあると思いますが、慰めたりするなどの情緒的なふれあいよりも、むしろ、具体的な方法論や手順を示すことで部下と組織全体の目標達成を果たそうとするリーダーシップのあり方です。

このようなリーダーシップの姿勢は、組織全体の目標達成を大前提にしたあり方で、リーダーの上司や経営層といった立場からは、リーダーのやるべきことを遂行しているように映るものですが、目標達成に向けた実務上の指導に熱心である一方で、人間的なコミュニケーションが希薄となってしまうと、部下からは機械的な印象を与え「不人情」といった反感をかうことも考えられます。
目先のことしか関心の無いように思われかねない、という事も想定しておきましょう。

2.説得型リーダーシップ(部下の成熟度:やや未成熟な場合に適用)

ある程度仕事に慣れてきた部下に対しては、ある程度、部下自ら目標の設定や組織で仕事に取り組む姿勢、またその仕事が必要な理由を理解し、仕事の意義を共有してくる必要があります。
そのためには、リーダーも、部下に積極的に組織の目指すビジョンを伝えたり、部下からの質問にも時間を割いて応えるといった、より踏み込んだコミュニケーションも必要になってきます。

このとき、部下の習熟度の見極めが不十分であれば、具体的なやり方を教えてもらってないのに、自分で考えるように言われるなどして、上司に対する信頼関係が損なわれてしまいます。
また、業務に慣れた分だけ、部下が自分なりの工夫やアプローチに対して意見を持つようになり、頼もしくなってきた半面、上司の言うことを聞かなくなってくるなどの課題が生まれてくる段階です。

個人的には、SL理論のリーダーシップのスタイルの中ではもっとも時間も工数もかかる種類だと思いますので、この段階でしっかり意識づけができれば、業務指導にかかるフォローアップにかかるリーダーのマネジメントはスムーズにいくことでしょう。

3.参加型リーダーシップ(部下の成熟度:やや成熟な場合に適用)

参加型リーダーシップは、部下が仕事において更に完成度を高めてきた段階でリーダーがとるべきスタイルです。

部下への信頼度は高くなりますので業務上の指示の必要性は低く、目標達成に向けての仕事も大いに任せられます。
説得型リーダーシップで発生した、部下の自発的な課題意識や、組織の目指すビジョンに対するアプローチ方法など、組織の課題を自分の課題として認識してもらうためのリーダーシップが必要とされる段階です。

そのため、自分の考えを部下に合わせ、自立を促すことも必要です。
部下のさらなる成長を促すためには、自分で考え行動することで失敗も受け入れるような積極性を身につけさせるためにも、人間関係を良好に保つことも重んじることが求められます。

部下の言葉に耳を傾ける柔軟なリーダーシップ・スタイルなので、一見部下にも上司にも都合がいいように思えますが、実は一番難しいスタイルだと思います。リーダーの成功体験が部下が失敗から学ぶチャンスを奪ってしまったり、部下から見ると、上司の判断があいまいで無責任に映ってしまうステージでもあります。

ここでもまた、部下の業務に対する成熟度愛の見極めが重要となってくるのです。

4.委任型リーダーシップ (部下の成熟度:成熟な場合に適用)

委任型リーダーシップは、部下の成熟度はかなり高く、自立できる段階で取るべきリーダーシップ・スタイルです。

ここまで来るとリーダーは、目標達成においての権限や責任を部下に委ね、下手に干渉などせず、仕事の過程を見守る事が有効的であると言えます。
有能な部下たちは伸び伸びと能力を発揮し、仕事の結果も大いに期待できるものとなるでしょう。

しかし、責任を委ねられた事が放置されたと見なされるといけません。
環境を整えたり、進捗を管理したり、人間関係を良好に保つ事など、部下が業務に取り組みやすいようにリーダーとして最低限のことに関わる必要はあります。

仕事志向が低く、人間志向も低いスタイルですね。

SL理論の欠点とまとめ

これまで、SL理論のリーダーシップのスタイルについて説明してきましたが、上述のように、「Situational(状況に応じた)」「Leadership(リーダーシップ)」がSL理論の根幹となるコンセプトでした。

ちなみに、SL理論は、提唱者の一人であるブランチャードの『1分間リーダーシップ』がベストセラーとなったことから有名になった理論でした。

今回、解説してきた通り、状況に合わせてリーダーシップのスタイルを使い分けるというアイデアは、なんとなく万能のような印象を与えますが、実は、大きな欠点もあります。

それは、状況に応じて、あるいはメンバーのスキルの習熟度に合わせて個別に対応することで、組織内でのリーダーからの対応に対する不公平感が生まれやすくなってしまうことや、メンバー全員に対するケアで手いっぱいになってしまうことです。

基本的に、リーダーというポジションに立つ人は、誰かを指導する立場にあることが多くなると思います。
SL理論によると、すべての人を個々のスキルに合わせて柔軟に指導方法を使い分けることを理想としていますが、ある人にとっては手厚いサポートを施し、別の人には親身になって悩みを聞き、またほかの人には熱くビジョンを説明して意識づけを行うなど、日々のプレッシャーに追われながら、個別にスタイルを変えつつマネジメントするのは非常に困難なことです。

時と場合によっては、わりきって、特定のスタイルで指導を行うことで効率的なマネジメントをしたくなることも出てくるでしょう。

しかし、特定のスタイルでマネジメントを行うと、どうしても部下の間にはリーダーとの接触する濃淡が生まれてしまいます。それでもまだ、部下たちの評価が横並びであれば問題はすくないのですが、優秀な成績を出したメンバーが出てきた場合、部下の間に評価の仕方に不公平感が生まれてしまうことがあります。

また、単純な作業や業務であれば、具体的な仕事の進め方を手取り足取り教えることは可能かもしれませんが、抽象度の高い業務(たとえばプレゼンテーション、ロジカルシンキング、リーダーシップ、ファシリテーション、イノベーション、マネジメント、モチベーションアップ、コーチングなど)については、手取り足取り教えたり短時間で習得したりすることは難しいこともあり、必ずしも部下がどの状況にあるのか判断が難しいことも多々あります。

このように、SL理論自体が、十分なリーダーシップの経験があることを前提とした理論であるため、個人的には、実際は見た目の美しさほど有用ではないとも思っています。

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著者情報

工学系の大学を卒業後、大手通信キャリアでシステム開発、データ分析、マーケティング支援に従事。私費MBA留学し戦略コンサルファームに勤務。その後大手通信メーカーで新規事業立ち上げを10年以上。専門は新規事業立案、イノベーション、マーケティング全般。PEST分析やSWOT分析などのビジネスフレームワークの研修講師も担当。その他スキルに英語、ウェブ開発、動画制作なども。ブログは10サイト以上/ウェブサービスもいくつか開発経験あり。英語はTOEICは955点保持。結構変わった経歴だと思っています。詳しくはプロフィールをどうぞ。

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