PEST分析 目的
一般的に、PEST分析の目的とされているのは、マクロ情報の収集です。企業を取り巻く外部環境の動きについていけず、いつの間にか時代に置いてけぼりにされないように、常に最新情報を収集し、周りにアンテナを張っておけば、競合に先を越されることも、市場ニーズに気付かないこともなくなるよね。というのが、PEST分析の存在価値であり、目的であると言われています。
ただ、PEST分析をして外部情報を収集して整理しただけでは、競合に先を越されないかというと、そうではありません。市場ニーズを常に把握できるかというと、もちろんそうでもありません。重要なのは分析の結果得られる「示唆」にあります。
つまり、情報を収集し整理するのは、あくまでも手段であり、得られた情報をモトに、対策やアイデアといった価値あるアウトプットを出すこと(または出すための支援をすること)が目的です。
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PEST分析とは?テンプレートの説明
では、PEST分析のテンプレートが取り扱う外部情報とは一体何でしょうか?
それは、政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Social)、技術(Technology)の4つの視点で得られる情報を指します。
※ちなみにPESTの文字の並びは、優先順位を示しているわけではありませんが、社内で議論をしていた際、優先順位から考えてみたら、PEST分析ではなくSTEP分析、つまり優先順位からいうと、社会、技術、経済、政治の順なのではないか?という話になり、面白いと思いました。確かにそうですよね。
PEST分析 進め方と注意点
PEST分析の難しいところは、教科書的な進め方をすると、まったく役に立たない情報の集まりができてしまうことです。
前述しましたが、一般的にPEST分析ではマクロ情報を収集することが目的とされます。目的としては、もちろんその通りなのですが、教科書的な説法でいうと、たとえば得られた情報を基にSTP分析(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングを決める分析手法)をし、さらに4P分析(マーケティングミックス)していくように勧める教科書もありますが、概念的にはそうかもしれませんが、私の経験から言うと、はっきりいってこんなやり方をしていたら、情報の海の中で漂流することになってしまい、失敗する可能性が非常に大きいと思います。
経験上、マーケティングやビジネス関連のフレームワークの勉強には、イラスト動画が一番効率的だと思うので、作ってみました。
情報の海で漂流するとは、目的の情報にたどり着くまで、ひたすらネット検索し続け、時間をかけまくって結局個人的なコメントの情報を探し出しても、それが「本当に必要な情報なんだっけ?」ということになってしまうことです。または、ある特定にキーワードをモトに、ネットや新聞に掲載されたあらゆる情報を集め、細分化されたカテゴリーの中に放り込み時系列で整理するなどしても「で、何がわかったんだっけ?」ということになってしまうことです。
PEST分析では情報の海での漂流と自己目的化に注意
また、実務上でいうと、ただ情報の海で漂流する危険があるだけでなく、経験がない人がやってしまうと、手段が目的化してしまう危険もあります。情報収集と情報の整理はそれだけでも多大な工数がかかりますが、効率的な情報収集や整理には、やってみると結構職人並のノウハウや工夫が必要であり、いつの間にか技術を駆使し美しくまとめることに夢中になってしまい、たいていの場合、示唆を抽出するという大切な作業が忘れ去られてしまうからです。
このように、PEST分析は、テンプレートの進め方ややり方をきちんと理解しないと、当初の目的を途中で見失ってしまったり、情報収集と整理が目的化されてしまい、間違った方向に行ってしまいかねません。
PEST分析テンプレートの進め方① 仮説から始める
そこで私がお勧めするのは、PEST分析を行うのは、アイデア出しの後に持ってくることです。もともとPEST分析の目的は何かというと、繰り返しになりますが、対策やアイデアなどのアウトプットを出すための支援でした。
であれば、順番などに固執せず、もっとも近道となる順序をとるなど柔軟にやるべきです。
私が戦略コンサルタントをしていたときに、先輩から繰り返し言われたことは「情報収集の前に仮説を立てる」ことでした。PEST分析についても同じことです。
まずは、仮説を立てる。たとえばPEST分析のゴールが「新規事業の参入の可能性がある事業領域を探すこと」なのであれば、最初にどのあたりが新規事業として可能性があるのか仮説を立てるのです。もちろん、あてずっぽうではなく、その領域が新規事業としてふさわしい理由が必要ですが、ぼんやりとでも良いので、まずは新規事業のアイデアが参入できる領域の仮説を持って、テンプレートの政治、経済、社会、技術の情報を収集し、課題やKSF、業界の常識などといった裏取りをするのが、もっとも効率的な進め方なのです。
PEST分析テンプレートの進め方② 要素間の相互依存関係を探す
PEST分析に限ったことではありませんが、ビジネスに関するフレームワークでは、テンプレートのそれぞれの要素(PEST分析でいう政治、経済、社会、技術)が独立して記載されていては、まったく意味がありません。アウトプットを得る示唆を出すためには、テンプレートのそれぞれの要素に横たわる相関関係や依存関係を紐解くことが、何よりも重要です。
ただ単に、規制緩和がありそうからチャンスだ!とか表層的な情報収集をするのではなく、規制緩和の背景にある社会の変革と顧客ニーズの変化や経済活動の動きがどのようにリンクされているかを理解しないと、外部環境の変化の本質が見えなくなってしまいます。この場合でいうと、規制緩和があると競合だってチャンスだと思うため、より早くレッドオーシャンになるはずです。レッドオーシャンを避けるには、どうすれば良いのか?の示唆を他の要素から得られなければ、参入は危険という結果になるかも知れません。
そもそも政治、経済、社会、技術というPEST分析のテンプレートの4つの要素は、なぜほかの要素が入っていないのでしょうか?たとえば文化や環境という要素は含まれていませんね。なぜ、この4つだけなのでしょうか?その答えは、これらの4つの活動が比較的おなじ時間軸の中で変化し、お互いに強い影響を与え合う間柄であるからです。そして、4つがひとつとなって個々のビジネスに影響(マクロ的な意味で)を与えているからなのです。だから、4つの要素を個別で分析することは、PEST分析の本来のパワーを半減させてしまいます。
お互いの要素がどのように影響しあうのかといった視点を、仮説でも良いので、必ず加えるようにする必要があるのです。つまり先読み、深読みですね。
実は、イノベーションはこのようなマクロ情報の相互関係や依存関係が背景となって生まれることが多いのです。
このように、PEST分析は、ある仮説を裏付ける外部環境の相互依存関係を探し出すことで、大切な示唆を得るのがキモだと思います。とっても難しいんですけどね。
経験上、マーケティングやビジネス関連のフレームワークの勉強には、イラスト動画が一番効率的だと思うので、作ってみました。
PEST分析テンプレートの進め方③ アイデアの裏づけや課題などの示唆を出す
最後に、PEST分析の結果として得られたアイデアの裏づけや課題などの示唆を出します。たとえば、最初に「新規事業として参入のチャンスがありそうだと思った領域」に対してPEST分析をはじめたのであれば、その裏づけを示したり、参入のための条件や事前に解決すべき課題を提示することです。PEST分析では、基本的に現時点で起こっている(または将来考えられる)情報の収集から将来を予測する手法がとられることが多いのですが、それでは発想の飛躍がおきにくいことが多いです。
そこで、思いきって、大胆な仮説を立て、その仮説が実現したときにはどのようなことが必要とされるのかといったことをバックキャスティングしながらPEST分析で得られた「裏づけ」情報をはめ込んでいくのです。
そうした試行錯誤の中から大胆な仮説やイノベーティブなアイデアに、実現性や現実味が味付けされていくのです。しかしこの時点では、すでにPEST分析はその役割を終え、検討段階としては一歩踏み出しアイデアの醸成フェーズに移っていることが多いと思います。
PEST分析のテンプレートでは出来ないこと
私はPEST分析をやることで、得られるメリットは、仮説やアイデアの裏づけを得ることや、新しい視点での課題を見つけることだと思っています。それ以上はPEST分析には荷が重いと思っていますが、PEST分析って超有名なフレームワークなんだからもっともっといろいろなことが出来るだろうと思っている方もいるので、ここでPEST分析では出来ないことを述べておきたいと思います。
PEST分析からはアイデアは出にくい
個人的な経験でもそうですが、社内で苦労している人が多いことから見ても、PEST分析の結果からいいアイデアが思いつけるという期待は捨てたほうがよさそうです。
現在の業界のしくみや、外部環境の構造を把握することは出来るかもしれませんが、そこから新しい発想を得ようとしても、すでに業界内の制約条件ばかり情報収集してしまっているので、なかなか発想を飛ばすことが出来ないようです。そりゃあ当然ですよね。PEST分析の正しい機能とは、既知の情報を集めてくることなんだから。
なので、PEST分析をモトにSTP分析や4P分析につなげてみたり、そこからアイデアを得ようとするのではなく、まずはアイデアありき、仮説ありきで、その裏づけとして、または制約条件を探すための手法としてPEST分析を行うべきだと思っています。
そうでないと、アイデアを出す側としては、苦労ばかりで面白みがなく、組織的にも工数をかけてばかりで成果が見えない状況がなが~く続くことになってしまいます。
PEST分析はあくまでもアイデアの裏づけ調査に留め、あまり深入りしないことがお勧めです。
PEST分析での中長期トレンド把握は無意味
個人的な見解になってしまいますが、私はPEST分析での中長期のトレンド把握は無意味だと思っています。たしかに確実な予測が可能である領域はあります。たとえば人口の推移予測がそれです。また、技術革新の方向性も大まかですが、予測することは可能でしょう。文化が短期間で変化することもまれです。しかし、それらはPEST分析をして初めてわかるようなことではありません。業界にいればある程度常識的なことなのではないでしょうか?
であれば、フレームワークを使う必要性はないですよね。だって自明ですから。フレームワークは、もっと示唆が出るために使うものです。
PEST分析だって、中長期のトレンド把握のために使うのであれば、有益な示唆がでる使い方をしなければなりません。ところが、既に述べたように、PEST分析をモトにアイデアや対策を出すことは、経験上非常に非効率的であり、得られる示唆も少ないです。仮説もアイデアもでない中、PEST分析の結果から研究開発の費用を決めたり、中長期の営業方針を決めることにどれだけ意味があるのでしょうか?
中長期的なトレンド把握をしたいのであれば、腰をすえてPEST分析を行うよりも、日ごろの情報収集から、ちょっと先を読んで社内で話題にしてみたり、会議の議論テーマにして各自が頭の中にぼんやりとイメージしておく程度で良いと思います。むしろ、そういう場作りのほうがPEST分析のために工数を割くことなんかより、よっぽど重要だと思います。
PEST分析まとめ
PEST分析については、結構辛らつな記述になってしまったかも知れませんが、教科書どおりに分析してしまうと、かけた時間の割には結局予定調和な結果になりがちなフレームワークだと思って、いつも注意しています。有名なフレームワークの割には、個人的にはあまり成果を期待できないと思っていますので、正直にかかせてもらいました。
まとめると、PEST分析は、政治、経済、社会、技術の4つの視点で、自社を取り巻く外部環境情報を収集し、何かしらの示唆を得る手法であること。
お勧めの手順としては、まず仮説やアイデアがある状態から始めること。PEST分析の出番は、仮説やアイデアの裏づけや新しい課題を見つけること。4つの視点の相互関係を気をつけながら、アイデアを実現するための、またはブラッシュアップするための示唆を出すこと。
でした。また、注意すべことは、アイデア出しのツールとしては使わないこと、そして中長期トレンドを把握するためのツールには向いていないと思っていることを述べさせていただきました。
ここで書かれたことは、一般的には、あまりいわれていることではないと思いますが、実務上私がいつも思っていることですので、みなさんのお役に立てれば幸いです。
経験上、マーケティングやビジネス関連のフレームワークの勉強には、イラスト動画が一番効率的だと思うので、作ってみました。
著者情報
工学系の大学を卒業後、大手通信キャリアでシステム開発、データ分析、マーケティング支援に従事。私費MBA留学し戦略コンサルファームに勤務。その後大手通信メーカーで新規事業立ち上げを10年以上。専門は新規事業立案、イノベーション、マーケティング全般。PEST分析やSWOT分析などのビジネスフレームワークの研修講師も担当。その他スキルに英語、ウェブ開発、動画制作なども。ブログは10サイト以上/ウェブサービスもいくつか開発経験あり。英語はTOEICは955点保持。結構変わった経歴だと思っています。詳しくはプロフィールをどうぞ。