生命保険業界は、明治時代に福沢諭吉が紹介してから始まった長い歴史をもつ金融業界のひとつです。
日本では長いあいだ外資系の参入がなかった業界ですが、今や外資系生命保険はCMでも毎日見かけるようになって、いまや群雄割拠状態だといえるかもしれません。
そんな外資も入り乱れる生命保険業界ですが、今回は、国内の電機メーカーのソニーと、外資米国プルデンシャル生命保険の合弁出資会社であるソニー・プルデンシャル生命保険が、国内生命保険市場の牙城を崩すことに成功した、成功要因とビジネスモデルについて解説したいと思います。
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※ちなみにケーススタディとは何かについての記事もありますので、興味がありましたらぜひご覧ください。
ケーススタディをやる意味や進め方。本当に知っていますか?
背景
戦後、日本は生命保険大国といわれるほど、生命保険化入者が急速に増えましたが、その背景には、戦争未亡人となってしまった女性の雇用先として、国策もあって、生命保険会社がこぞって採用を進めてきたことがあります。
このような背景で雇用された女性を保険外交員とかセールスレディといいいましたが、セールスレディの多くはパート的な働き方が中心だったので、生命保険商品に対する知識が追いつかないこともあり、離職率も高いものでした。
そこで、スキル不足や知識不足を埋めるように、知人や友人などの伝手や、生命保険の知識のない新入社員を狙った販売が中心となり、その結果商品知識不足を補うため商品の説明よりも、加入特典を前面に出した営業スタイルに傾注していくことになっていきます。
このように、生命保険営業は、深い商品知識よりも個人の人脈や特典に頼ることが多く、セールスレディが辞めると保険も解約するなどの問題を抱えていくことになりました。
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現状認識と発想の転換
そんな中で、ソニーの盛田社長は新しい収益の柱として金融市場への参入可能性を探っており、懇意にしていた米国プルデンシャル生命保険のマクノートン会長の日本進出の意向とも重なって、ソニー・プルデンシャル生命保険(現在のソニー生命保険。プルデンシャル生命保険は現地法人化。)を立ち上げることになりました。
しかし、ソニー・プルデンシャル生命保険が日本で生命保険に参入しようとしたときには、日本はすでに90%以上の加入率を誇る生命保険大国になっていたのです。
そんな中、同社は、生命保険の本来のあるべき姿が実現されていないという強い認識がありました。セールスレディによるプレゼント攻撃や、義理人情による加入促進は、本来の生命保険の目的を果たしていないと考えていたのです。
同社は、生命保険の目的を果たすためには、保険のエキスパートによるコンサルタント営業での丁寧な説明と、生命保険商品の差別化が求められていると考えていました。
これは、生命保険はセールスレディによる人脈や加入特典が常識の営業スタイルとは真逆の方法でした。
解決策としくみ
ソニー・プルデンシャル生命保険は、生命保険サービスの本来の姿を具体的にはどのように考えていたのでしょうか?
それはライフプランナーという言葉に集約されています。つまり、人生における様々なイベントに対して、生命保険の本来の(特典や付き合いではない)役割を提供できるものでなければならないし、提案できるものでなければならないと考えていたのです。
ヘッドハンティングによる中途採用
人生や家族の生涯を左右するライフプランナーは、高度な提案力が求められるセールスパーソンでなければなりませんでした。そのためには、パート的に働くスタイルではなく、すぐれた営業力をすでに発揮できているエキスパートが必要でした。その需要を満たすため、ソニー・プルデンシャル生命保険では、ライフプランナーは新卒採用ではなくヘッドハンティングによる中途採用で、集中的に優秀な人材を集めることで解決したのです。
ニードセールスとオーダーメイドの生命保険
生命保険商品を提案するためには、経済知識、金融知識、数値、統計の知識も必要です。そのため、2年間の研修期間を儲けるなど徹底した教育をしています。
このような商品知識の習得によって、お客さまの個々のニーズにあわせて保険商品を組み合わせたオーダーメイドの提案ができる環境づくりを整備しました。
本来、人の人生に同じものがないように、生命保険だって、加入者のライフイベントにあわせて、カスタマイズされるべきです。この生命保険のあるべき姿を追求し、コンサルティングすることがソニー・プルデンシャル生命保険の差別化を生み出したのです。
紹介による顧客開拓営業
ソニー・プルデンシャル生命保険の営業スタイルは、紹介獲得による見込み客獲得から始まります。紹介というと、執拗で迷惑な印象がありますが、同社がこのやり方で成功しているのは、友人知人に紹介するだけの価値があると思ってもらえるだけの、高い提案力やコンサルティング能力が隠されているのです。
もし、だまされたとか、口ばっかりだったとか思われてしまったら、紹介獲得による見込み客獲得の営業スタイルは絶対継続できませんし、破綻することが目に見えています。高い営業力を持つソニー・プルデンシャル生命保険だったからこそなしえた営業スタイルなのです。
決め手
ソニー・プルデンシャル生命保険は、1987年に合弁解消し、それぞれソニー生命保険とプルデンシャル生命保険として別々の道を歩むことになりますが、基本的な理念や営業スタイルはそのまま踏襲されました。
その後も、両社とも飛躍的な成長を遂げ、生命保険満足度調査ランキングhttp://diamond.jp/articles/-/69066では、契約満足度でソニー生命が2位、プルデンシャル生命は3位、請求満足度ではプルデンシャル生命が1位、ソニー生命が4位というランキングになっています。
「リビングニーズ特約」をご存知ですか?この特約は、医師から余命宣言をだされたときに、保険金の一部を生前にうけとることができる商品のことですが、この特約をいち早く始めたのは、プルデンシャル生命保険でした。
この商品こそ、加入者の人生、家族の生涯を最優先に考え、生命保険のあるべき姿を追求しようとして生まれた商品だと思います。プルデンシャル生命やソニー生命がはじめた商品はリビングニーズ特約だけではありませんでした。その後、今や業界の常識となっているような新しい商品を数多く開発していくことになります。
まさに、本来の生命保険の役割を果たそうとする使命感や社会貢献に対する意識を、加入者が真摯に受け止めたことが、同社の成功に結びついているのではないでしょうか?
まとめ
ソニー・プルデンシャル生命保険の成功と躍進は、単なるビジネスモデルの力によるものではないと考えています。
生命保険に対する真摯な態度と、あるべき姿の追求、そして具体的な解決策の模索と実践から生まれた成功モデルだったと思います。個々の具体的なパーツは真似することはできると思います。
たとえば、トップセールスマンのヘッドハンティングは生命保険に限った話ではないでしょう。戦略コンサルタントの世界ではよくある話です。また、紹介による見込み客の獲得営業も真似することは容易です。しかし、表面だけ真似しても結果は見えていますよね。
このように、簡単に真似することができる仕組みでも成功できたのは、同社の従来の生命保険に対する問題意識と、本来の姿に対するこだわりが、あったればこそだったのだと思います。
著者情報
工学系の大学を卒業後、大手通信キャリアでシステム開発、データ分析、マーケティング支援に従事。私費MBA留学し戦略コンサルファームに勤務。その後大手通信メーカーで新規事業立ち上げを10年以上。専門は新規事業立案、イノベーション、マーケティング全般。PEST分析やSWOT分析などのビジネスフレームワークの研修講師も担当。その他スキルに英語、ウェブ開発、動画制作なども。ブログは10サイト以上/ウェブサービスもいくつか開発経験あり。英語はTOEICは955点保持。結構変わった経歴だと思っています。詳しくはプロフィールをどうぞ。