レトリックってご存知ですか?よく修辞学とか雄弁術と言われますが、簡単に言ってしまえば、誰かを説得するための技術のことです。
かならずしも論理的な考え方や、事実を中心に説得しようとするだけでなく、詭弁や誤謬もかまわず使って説得しようとする技術なので、一般的にあまり良い意味では使われることはありません。
そんなレトリックですが、私は今後、日本人が有意義に議論をするためには、レトリックは欠かせない技術になっていくと思っています。ここでは、私がレトリックが今後のビジネスマンにとって必須のスキルになっていく7つの理由を解説したい思います。
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1.詭弁を見抜くことができるようになる
レトリックを学ぶことで有意義な議論ができるようになる最初の理由は、なんといっても「会議の中で出てくる詭弁を見抜く力を身につけることができる」ようになることでしょう。
詭弁を聞いたら、すかさず「それって、一般化してない?」とか「他にも選択肢あるよね?まちがった二分法でしょう?」といった指摘ができるようになってきます。
必ずしもレトリックの専門用語で指摘する必要はありませんが、レトリックを学んでいれば、詭弁を聞いたときに「何かが間違っている」という感覚が身につくはずです。
詭弁を見抜くことができるようになることで、自然と簡単にはだまされない、流されない思考ができるようになってきます。
2.論理的思考ができるようになる
レトリックや詭弁と論理的思考はコインの裏表の関係にあります。一見、論理的に聞こえるような発言でも、実は詭弁であることがよくあるものです。
たとえば、会議では、過去の経験則やトレンドなどを何も考えず持ち出してきたり、顧客の意見がすべて正しいとする発言が飛び出すことがありますが、これらの発言は詭弁である可能性が高いです。いわゆる「思考停止ワード」になっていないかうたがう必要があります。
実際には過去の経験が必ずしも正しいとは限りませんし、むしろ過去の経験を壊すことがイノベーションになることが多いはずです。トレンドやバズワードに振り回されて失敗することも多いでしょう。顧客の意見に耳を傾けるというのも、耳障りはとってもよく反論しにくいものですが、顧客の声に忠実にしたがった優良企業が破壊的イノベーションに駆逐されるという研究結果もあるように、必ずしも正しくはありません。
レトリックを学ぶことで、これまでの常識や定見を前提とした詭弁を見抜き、より本質的な議論ができるようになるはずです。
3.思考の幅が劇的に広がる
レトリックを身に着けると会議が有意義になるだけでなく、物事をうたがってみる力がついてきます。
たとえば、テレビのニュースを見ていて鵜呑みにせず、ニュースキャスターの飛躍やデタラメを指摘できるようになったり、新聞記事の結論を支える前提を批判することができるようになったりします。
このような力は、まさに仮説を出す力につながります。まずは、業界の秩序でも顧客ニーズでも何でもいいのですが、まず現在の状況の前提となっている条件をうたがってみることで、新しい価値を考える力が身につくはずです。
結果的に、地頭力がついてフェルミ推定ができるようになると思います。
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4.詭弁を使えなくなる
他人の詭弁を指摘できるようになると、詭弁をつかって議論することのコワさに気が付くと思います。
レトリックのひとつに、「人に訴える議論」というのがありますが、これはその人の過去の発言や行動を基にして、その人の発言の説得力をのものをなくすようなレトリックです。たとえば、ヘビースモーカーが禁煙を進める団体に所属していた場合、その人がヘビースモーカーであることを批判することで、その人の発言そのものの説得力をなくそうとするような使い方をします。
このように「人に訴える議論」は、発言者の言動が議論そのものの説得力を左右してしまうのです。ということは、過去に誰かの詭弁を見抜く力がついてくるにつれ、自らもその詭弁を使った議論はできなくなってしまうのです。
もし誤って詭弁をつかってしまったら、「なんだよ!自分だって詭弁つかってんじゃん」って指摘されて、窮地に陥ってしまますからね。レトリックに限らず、自分が過去の行いは、結局自分に帰ってくるのです。
5.平等な立場で議論できるようになる
地位や過去の実績にとらわれずに、平明な視点で議論ができるので、イノベーションが起こりやすくなります。
どうしても、上司の立場を気にした発言をしてみたり、上司の発言に反論することは気が引けるものです。
また、専門家の意見や経験者の意見というものは、有無を言わさず尊重されてしまうものです。
上司が詭弁を使っていることを指摘することで、権力や権威に左右されたりすることがなくなります。
これは、過去の実績が優れているという「伝統に訴える誤謬」や「権威に訴える誤謬」を犯している可能性があります。
レトリックを真摯に学び、取り入れることができれば、このような誤謬がなくなり、より平等な立場で議論ができるようになるでしょう。
6.場の空気に流されなくなる
場の空気はやっかいな生き物です。正しい議論を進めようとしても、「空気」という言葉ひとつで無意味なものに変えてしまう力を持っています。『失敗の本質』では、太平洋戦争の沖縄戦で会議の空気によって要領を得ない会議になってしまったことが敗因の一つだと分析しています。
このやっかいな「場の空気」は、合理的な判断の付け入るスキをなくしてしまいますが、この空気を作っているのは、まさにレトリックであり詭弁や誤謬です。しかし多くの場合、これらの空気を打ち破る方法を身につけていない場合が多いのです。旧日本軍も空気に勝てず、有意義な議論ができませんでした。
そもそも、これらの「空気」を破壊するには、空気を生み出したレトリックや詭弁と誤謬を攻撃するしかないはずです。
誰かの発言の詭弁を見抜き、思考の幅が広がり、平等な立場で議論ができるようになることによって、会議に参加している人たちが、場の空気を支配しているレトリックを攻撃し亡き者にすることで、有効な議論ができるようになっていくのです。
7.評論家が減る
平等な立場で意見がいえるようになると、良い事が沢山あります。まず一つ目には、社内が元気になることです。そして、発想の飛躍をお越し、これまで考えもしなかったアイデアが飛び出すことがあります。
このようなある種の楽しいプレッシャーを会議の中に醸し出すことで、アクションを起こすことを前提とした議論ができるようになってきます。
逆に言えば、アイデアを出さない人や、他人のアイデアを否定ばかりする人の居場所がなくなっていくはずです。
このようにして、無意識のうちに無責任な発言をする人や、行動を伴わない人を教育し変えていく環境になっていくのです。
著者情報
工学系の大学を卒業後、大手通信キャリアでシステム開発、データ分析、マーケティング支援に従事。私費MBA留学し戦略コンサルファームに勤務。その後大手通信メーカーで新規事業立ち上げを10年以上。専門は新規事業立案、イノベーション、マーケティング全般。PEST分析やSWOT分析などのビジネスフレームワークの研修講師も担当。その他スキルに英語、ウェブ開発、動画制作なども。ブログは10サイト以上/ウェブサービスもいくつか開発経験あり。英語はTOEICは955点保持。結構変わった経歴だと思っています。詳しくはプロフィールをどうぞ。