質の高いファシリテーションは「準備」から
以前、超初心者向け】会議を円滑に運営するためのファシリテーションの4つの基本手順で述べましたが、ファシリテーションをしっかりと機能させるためには「準備」「導入」「進行」「収束」の4つの基本手順に分けて考える必要があります。簡単におさらいすると、それぞれ以下のような内容となっています。
- 「準備」… 事前に行う効率化
- 「導入」… 目標とルールをメンバーと共有する
- 「進行」… 意見を引き出し、相互作用を図る
- 「収束」… 目標に向けて整理し、結論を導く
この4つの基本動作を心がけていれば質の高い会議をファシリテーションすることができるのですが、最も最初に来る手順である「準備」を怠ってしまっては、すべてが台無しになってしまいかねません。
ということで、今回は会議の「準備」がテーマです。
「導入」、「進行」、「まとめ」を潤滑に進めることができるように事前にシミュレーションし、必要なものを揃えて万全の体勢で会議に臨みましょう。
会議に必要なものと一口に言っても、具体的にどんなものを揃えればいいのでしょうか?次項で詳しく説明します。
そもそも会議の「準備」って何でしょうか?
あなたは上司から「会議の準備をせよ」との指示を受けたら、どんなものの準備をしますか?
まず思いつくのが、会議室を押さえることでしょうか。それから資料の作成・印刷です。近年ではテレビ会議システムやプロジェクターを用意する企業も多いですね。もちろん、参加メンバーの招集も忘れてはいけません。ざっと思いつく限りではこんなところでしょうか。
当然、これらも正解です。しかし、これらは会議に必要なものの中のごく一部でしかないのです。
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そもそも、「会議の準備」とは何をもって完了と言えるのでしょうか?
正解をズバリ言える人はもとより、そんなこと考えたことも無いという方がほとんどかと思います。
しかしこれが意外と重要なことなのです。何をもって準備完了と言えるのかも分からずに完璧な準備をすることは不可能です。会議において終了条件の設定が大事だということは既に学びましたが、会議の準備においても終了条件を設定することが実は大切なことなのです。
そこで覚えていただきたいのが、以下の4つの視点です。
- 「目的」からの視点
- 「人」からの視点
- 「進め方」からの視点
これらの要素が全部揃って初めて完璧な準備ができたといえるのであり、一つでも欠けては準備完了とは言えないないと思います。それでは、各要素について一つずつ解説していきましょう。
「目的」からの視点で準備すること
まず1つめの視点は「目的」です。
会議で何を達成したいのか、つまり何を得られればゴールとするのかを事前に設定することを指します。
「何も事前に決めなくても、会議が始まったらその場で考えれば良いのでは?」とお思いかも知れませんが、そうしてしまうと参加メンバーや会議の進め方、所要時間まで変えなければいけないおそれがあります。
会議の締め方の条件設定ひとつで会議全体が変わってしまうと言っても過言ではありません。
そのような事態を避けるためにも、会議を終える条件は事前に決めておきましょう。条件の設定方法は、過去記事ファシリテーションのスキルを学ぼう。会議の締め方ってどうすりゃいいの?で既に解説したので内容は省略します。詳しい方法はそちらをご参照ください。
簡単に要約すると、ゴール設定や終了条件の設定には、いくつか基準を設けることが有効だということです。その基準の設け方として、たとえば、以下の例のような方法があります。
- メンバーにノルマを与える
- 投票などによって合意形成を図る
- 判断する人を決めておく
ほかにも、いろんな基準があると思うので、工夫をこらして自分たちにあった、そして会議の内容にそった終了条件を設定することができると思いますが、このように会議の終了条件を明確化することで、参加者の発言も質問の観点も変わり、より質の高い議論へと変化していくはずです。
また、会議のゴールがはっきりと示されているので、全員の足並みが揃い、団結力が生まれるはずです。
詳しくは過去記事ファシリテーションのスキルを学ぼう。会議の締め方ってどうすりゃいいの?をご覧ください。
「人」からの視点で準備すること
2つめの視点は「人」です。
会議を開くとなったとき、誰に招集をかけるかを考えるのは当然のことですが、あなたは
ファシリテーターとして、何を基準に参加メンバーを選んでいますか?
「これといった理由は無いけど、念のため◯◯さんは呼んでおいた方がいいかな…」という具合で参加者を選んではいません。また、このように「なんとなく」だけで参加者を選んでいては、会議室のイスがいくらあっても足りません。
参加者を絞り込むために候補メンバーを、「いないと困る人」、「どちらかと言えばいた方がいい人」、「いない方がいい人」の3種類のいずれかに振り分けましょう。
当然「いないと困る人」を中心に召集メンバーと開催日時を決めることになると思いますし、「いない方がいい人」は通常は召集しないと思います(召集したくなくても召集せざるを得ない場合はあると思いますが…)ので、問題となるのは「どちらかと言えばいた方がいい人」でしょう。
会議が成立する要件から召集する
このとき、「もしかしたらあの議題が出るかも知れないし、念のため◯◯さんも呼んでおくか…」といった理由から招集をかけてしまいがちですが、実際は「いないと困る人」以外のメンバーはいなくても会議は成立するはずです。
「どちらかと言えばいた方がいい人」は居ても居なくてもいいのであれば、とりあえず呼んでおけばいいのでは?とお考えかも知れませんが、参加メンバーの絞り込みは徹底することを強くお勧めします。なぜなら、彼らは会議に関心の薄い人である場合が多いからです。
このような人を会議に招集すると、発言が極端に少なかったり会議中に居眠りや携帯をいじったりしているだけなんてことになりかねません。そのような事態になると議論全体のモラルが下がり、参加メンバーのモチベーションも下げることになりかねません。
少人数で多数の意見が出る会議と、大人数で一部の人だけが議論をかわす会議、どちらが上質な会議かは一目瞭然ですね。このことからも分かるように、「なんとなく」や「とりあえず」の理由だけで特段不要なメンバーまで招集すると、参加者だけが余計に増え、結果的に会議自体にマイナスの影響を与えかねないのです。
「参加したくてしたんじゃない」と言わせない
ここまではあくまで召集側の意見を述べてきましたが、今度は召集される側の立場から考えてみましょう。
「どちらかと言えばいた方がいい人」たちからすれば、関心の薄い会議に招集されたときどのように感じるでしょうか?「実に有意義な会議だった」と感じる人は少ないはずです。
熱意が中途半端な人を会議に呼ぶよりは、少数精鋭のメンバーで会議に臨んだ方がよほど効率的なのです。
このように、参加者を選定するときのポイントは、「この人がいなかったら何が起こるだろうか?」と考えることです。終了条件を達成するうえで、終了条件達成に必要不可欠な人材だけ召集するといった具合に割り切ったほうが、質の高い会議を運営することができるのです。
「進め方」の視点で準備すること
3つめの視点は「進め方」です。
要するに会議の「工程」のことです。「工程=議題(アジェンダ)」と勘違いする方もいるかも知れませんが、実は工程と議題は似て非なるものなのです。
議題はあくまで「何を」議論するかを表します。一方、工程というのは「どうやって」議論するかを意味する言葉です。議題を考えるだけでは、会議の準備として十分とは言えません。具体的な工程まで考えて、初めて会議のシミュレーションが成立したと言えるのです。
たとえば議題が「課題を洗い出す」というものだったとします。この場合、どのような進め方が考えられるでしょうか?いくつか例を挙げてみましょう。
- 【主催者側のたたき台をチェックする進め方】会議の課題の試案を主催者側であらかじめ用意しておき、穴が無いかを参加者全員でチェックする
- 【参加メンバーに課題を出してもらう進め方】思いついた課題をその場で発表してもらい、主催者がホワイトボードに記録していく
- 【絞り込みの場として会議を使用する進め方】参加者には事前に課題を考えてもらい、メールで回答を募る。それを主催者側でまとめておく。会議当日はそれを基に過不足を確認する
など、ほかにも様々な方法論があると思いますが、このように議題ひとつとっても進め方はたくさんあるものです。
「進め方」視点で準備するということは、会議のシナリオを考えるという意味でとらえてもいいと思います。会議の終了条件を達成するにはどのような手順を踏めばいいのか、どのような順序で何について議論すればいいのか、またどのように議論するのかを考える作業です。ドラマでいう筋書きのようなものですね。
もちろん、工程を決めたからと言って会議のすべてをシナリオ通りに進めろと言っているわけではありません。準備はあくまで準備なので、想定通りにいかないこともあります。しかし前もってシミュレーションをしておくのとしておかないのとでは、心構えも違ってきます。不測の事態に備えて、準備をきちんとしておくに越したことはありません。何事も「備えあれば憂いなし」なのです。
ファシリテーションの「準備」スキルの習得 まとめ
いかがでしたでしょうか?これまで3つの視点について解説してきましたが、もちろん、これ以外にも準備すべき事柄はたくさんあると思います。たとえば、会議室の予約、備品の準備とアジェンダの調整、開催通知を出して、当日の配布資料の作成など、たくさんあると思います。
しかし、それらの準備の基礎となるのは、今回挙げた3つの視点が起点になているはずです。
「目的」の視点を持っていないと、アジェンダの準備もできませんし、ダラダラ会議になってしまうなどファシリテーションに支障が起こります。
「人」の視点がないと、そもそもアジェンダの調整もできませんし開催通知も出せません。最悪、会議自体も開けないでしょう。
「進行」の視点がないと、行き当たりばったりのファシリテーションとなってしまいかねませんし、結論に導くことができなくなってしまいかねません。
このように、質の高い会議を準備するための要素は、この3つの視点を持っているかどうかにかかっているといっても過言ではないのかもしれません。
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著者情報
工学系の大学を卒業後、大手通信キャリアでシステム開発、データ分析、マーケティング支援に従事。私費MBA留学し戦略コンサルファームに勤務。その後大手通信メーカーで新規事業立ち上げを10年以上。専門は新規事業立案、イノベーション、マーケティング全般。PEST分析やSWOT分析などのビジネスフレームワークの研修講師も担当。その他スキルに英語、ウェブ開発、動画制作なども。ブログは10サイト以上/ウェブサービスもいくつか開発経験あり。英語はTOEICは955点保持。結構変わった経歴だと思っています。詳しくはプロフィールをどうぞ。