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アスクルの成功とビジネスモデル【古典ケーススタディ】

      2017/11/10

アスクルは中小企業のMRO(企業内で使用される消耗品・補修用品などの間接材のこと)の製造販売大手で、創業以来成長を続ける社内ベンチャーの成功例としてもっとも有名な企業です。今、社内ベンチャーと述べましたが、アスクルはもともとプラスという文具メーカーのカタログ販売事業を手がける部門として、社内で新規事業を立ち上げたことからはじまっています。
当時の文具業界では、ガリバーのコクヨが販売ネットワークを押さえていて、後発でメーカーとしての歴史もほとんどないプラスが、メーカー自身で直接お客さまに商品を販売するイノベーションをおこしたことで、独壇場の市場を創造することに成功しました。
では、なぜアスクルはこんなハナレ技ができたのでしょうか?すでに古典になる事例ですが、業界のビジネスモデルの矛盾をついた成功事例なので、ご紹介しておきます。

※ちなみにケーススタディとは何かについての記事もありますので、興味がありましたらぜひご覧ください。
ケーススタディをやる意味や進め方。本当に知っていますか?

背景

アスクルがいったい何をやりとげたのか、かんたんにおさらいしておきます。上でも述べたとおり、当時の文房具業界ではコクヨがシェアトップを独走していましたが、コクヨがシェア・トップでいられたのは国内の販売ネットワークをほとんど押さえていたからでした。
そのため、プラスはどんなに良い商品を作っても大きな流通網には乗せることができず、爆発的には売れにくい状態が長く続いていました。また、追い討ちをかけるように、プラスのか細い販売ネットワークもコンビニにだんだん奪われるようになっていきます。さらに悪いことに、オフィス・デポなどの海外企業が参入してきたから大変です。もう、プラスにとっては八方ふさがりの最悪な状態です。まさに、生き残りを掛けたチャネル戦略が必要とされていたのでした。

現状認識と発想の転換

そもそも、当時の企業向け文具販売はどのような営業スタイルだったのでしょうか?コクヨなどの大手は大企業の総務部門などに担当営業マンをおくりこんで、大量受注を囲い込んでいて顧客の奪い合いがはげしい市場でした。ここに新たに営業マンを送り込んでも、結局体力勝負になってしまい勝ち目がありません。では視点をかえて、中小事業者市場はどうでしょうか?中小企業の購入量と頻度は、当然大企業ほど大きなものではないので、営業マンを訪問させて注文を聞いて回ることは効率が悪すぎてうまみがありません。そこでメーカーとしては、小売店などの販売ネットワークに任せているのが実態でした。ようするに、中小企業の総務の事務担当が空いた時間を見つけて、みずから文具店やコンビニで買ってもらうスタイルが一般的だったのです。常識的に考えていると、プラスにはもう勝ち目はありません。体力勝負の大企業に営業活動をするか、うまみのない中小企業市場で小売店にお願いして回るか・・・。
しかし、プラスは別の解を導き出しました。中小企業の事務の実態を知るうちに、実はここにビジネスチャンスが眠っているのではないかと考えたのです。中小企業の事務担当者は、庶務のかたわら数本のペンを買いに行くためにわざわざ時間をとらないといけないことに不満があったり、事務の女性が重いコピー用紙を抱えて雑居ビルの階段を登らないといけなかったりして、本当はもっと楽に注文したいというニーズが無意識のうちにあるのではないかと考えたのです。

解決策としくみ

そこで考えたのが、中小企業へのカタログ販売でした。商品そのものの機能で差別化するのではなく、事務担当者の日ごろの悩みを解決できることを考えた結果、メーカーによるカタログ販売を見つけたのです。カタログに載っている商品であればペン1本からでもFAXで注文を受け、翌日には商品を届けるしくみを作ることで、事務担当者の手間や労力を解消できると考えたのです。
これまでプラス製品を販売してくれてきた小売店にとってもメリットができるしくみも考えました。小売店が新しいお客さまを開拓することで、手数料が得られるエージェント制度をつくったのです。この制度によって、小売店はメーカーにお客を奪われる心配もなく、むしろ新しいお客を開拓するモチベーションが生まれたのでした。
この成功を見て、さらに事務担当者のニーズにこたえるためプラス製品だけでなく競合他社の商品も販売することに踏み切ったことで、爆発的に成長することになったのです。
ビジネス・モデルをざっくりまとめると、こんな感じでしょうか。

1.カタログ販売による直接販売

定期的にとどくカタログから商品を選んで、必要な数量をFAXで注文できるようにした。

2.翌日配送による事務担当者の悩み解決

翌日配送することで、買出しの手間や重い荷物から開放された。

3.エージェント制度による既存小売店とのWin-Win実現

小売店には料金回収の手数料収入を支払うことで、新規顧客開拓を担当してもらう。

4.独立による他社メーカー製品の販売と成長

総合的なニーズを満たすため、自社製品にこだわらない商品を販売しはじめた。

決め手

アスクルが成功した理由には、事務の女性の日々の不満を解消したことや、小売店との協力関係などいくつかありますが、本質的な決め手は何でしょうか?
それはガリバーのコクヨからマネされにくい戦略を取ったことだと思います。ガリバーは、当初巨大な小売店のネットワークをもっていたため、プラスほどかんたんにはメーカー直販にカジを切ることができませんでした。いわゆる「中抜き」されることに対するチャネルからの反発です。コクヨがうまくカジを切れずに時間を浪費している間に、アスクルが大きくシェアを伸ばしたことが成功のポイントだったと思います。このように、ライバル企業がかんたんにまねできない仕組みを作ることが決め手になることは、実はシェア逆転の事例ではけっこう多いものです。

まとめ

アスクルの成功の理由は、実はメーカー直販での価格の安さがポイントではありませんでした。
事務担当者が文具などの小物やコピー用紙などの重い商品を小売店まで買いにいくのではなく、メーカーが翌日届けるという新しいコンセプトが喜ばれたことが大きいと思います。また、小売店とのいい関係をつくることができたことや、もともと販売ネットワークが脆弱だったからこそコクヨには真似したくでもできない方法を見つけることができたことも幸いしました。
中小企業の事務担当者の実態と悩み、そして自社の販売ネットワークの弱みと差別化がむずかしい商品の特性などを総合的に解決したサクセス・ストーリーだったと思います。

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