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ビジネスにも応用できる!こころを動かされた戦史研究本3冊

      2017/03/28

ビジネス書だけを読んでいても、ビジネス戦略の本質はわかりません。
よく戦争とビジネスは似ているといわれますが、戦史研究から「戦略」のエッセンスを学んでみてはいかがでしょうか?今回は、歴史上の武将や戦争などの戦史研究を取り扱った書籍の中で、とくにビジネスにも有益だと思われる本を3冊ご紹介しながら、著書の反響や著者の信念についてもお話ししてみます。

思い込みや既成概念からの脱却が秀逸!『信長の戦争』

この本は、織田信長の戦史研究です。桶狭間の戦いや姉川合戦など信長の有名な戦いを、まったく新しい視点で批判的に分析した本で、桶狭間の合戦が実は奇襲ではなかったことや、長篠の戦いの三段撃ちは実際にはなかったことなどを信頼性の高い文献から科学的に証明しようとした意欲作です。
私は、日本史が好きで歴史小説を多く読んでいますが、小説とは違って、この手の戦史研究本には当たり外れが多く、しっかりとした裏づけがなかったりウワサ話をまとめているだけのものも多いいものです。この本も正直あんまり期待しないで気軽に手に取ったのですが、これがいい意味で期待を大きく裏切る良書でした。読み進める中での驚きや読後感のさわやかさは、この手の本ではなかなかありません。
また、同書は戦史研究の成果だけではなく、これまで注目されることの少なかった『信長公記』を研究資料として再評価させることにも成功しました。

しかし、同研究ははじめから順風満帆で大成功したわけではありませんでした。今ではこの本で書かれている研究結果が通説となってきていますが、発行当時は賛同者がほとんどいなかったそうです。発想が斬新すぎて、長い間につくられた信長像や定説に心も脳みそもしばられた研究者たちから、いっせいに批判を浴びたそうです。このようにまったく新しい視点や発想というものは、反対や批判が多いものです。私はこの本の秀逸さもさることながら、著者の研究する姿勢に感動しました。研究者としてのあり方を通し最終的には勝利を勝ち取った理由には、既成概念と常識に挑戦したという絵に描いたようなサクセ・ストーリーだけでなく、批判をあびてもあきらめないで主張をし続けた粘り強さがあるのではないでしょうか?
新規事業の立ち上げ段階では、いつも業界常識が邪魔をします。なぜなら、まったく新しい市場にまったく新しい商品で参入することなど、普通はないからです。そのため、自分が知っている範囲についてはこれまで経験した常識で考えようとし、その常識に対して非常識な意見がでてくると積極的に排除しようとするのです。
とはいいつつも、これまでの常識を否定する新しい商品やサービスは、それだけでは成立しないのも事実です。だからこそ、成功するまで粘り強く主張をし続けることが大切なのです。著者の研究者という立場と私の立場はまったく違いますが、私もイントラプレナーとしてこうありたいと思った本でした。

経営学の理論を使った旧日本軍の失敗分析!『失敗の本質』

経営学上で60年代から70年代にかけて隆盛したコンティンジェンシー理論を根拠にして、旧日本軍の太平洋戦争の敗北の原因を、組織面で追究しようとしたベストセラーです。コンティンジェンシー理論とは簡単に言うと、「もっとも環境に適合した組織が生き残る」という理論です。ダーウィンの進化論の組織版のようなイメージですね。結論からいうと同書は、旧日本軍は日露戦争での成功体験にしばられて、航空機による制空権が勝因を左右するようになった環境変化への対応に遅れ、戦車や機関銃などの技術開発を軽視しすぎたことが原因で敗北したと分析しています。つまり、環境変化に迅速に対応できずに、大鑑巨砲主義や精神主義に陥り、そこから抜け出せなかった旧日本軍の意思決定の硬直性に問題があったというのです。
たいてい、この手の実体がつかみづらい漠然とした大きな問題では、いつも結果論になりがちなものです。安易に「日本が負けたのは、そもそも勝てない勝負をしてしまったからだ」という論調に流されてしまいかねません。しかし古今東西の戦史研究では、劣勢を挽回した戦争も数多くあったということがわかっています(※姉妹本:『戦略の本質』)。日本だって、日露戦争で大逆転を経験したはずでした。同書では、旧日本軍がこの経験を生かせなかったことに着目して、大きな問題を提起しています。つまり、組織全体の成功体験への執着が「環境への過剰適応」を招いたことを主張したところに、この本の画期的なところがあったのです。私は、そのときまでは「環境に適応することはいいことだ」と、何の問題意識もなく自然と思い込んでいたのですが、この本ではじめて過剰に適応することのリスクに気づかされました。いわゆるメンタル・ブロックや思考停止ワードなどに惑わされることなく、短絡的に結論を急がないで本質を探求したことに、新鮮な驚きがあったことを今でも覚えています。

また、個別問題から抽象化し、組織的なしくみの問題に遡及する分析の手法も秀逸です。太平洋戦争でのターニングポイントであった各戦局を個別に分析して、共通点を洗い出し、そのうえで日本の組織がかかえる根本的な失敗の原因を導き出している論理展開は、ただ面白いというだけでなく、ロジカル・シンキングやドキュメンテーションの勉強にもなると思います。
もうひとつ違った側面でも面白い発見がありました。新商品や新事業を企画するときにかかせないのが、アイデアの発想を飛躍させることですが、それには数多くの事例研究を頭の中にできるだけ多く入れておいて、そこから本質を抽出する作業や能力が需要なポイントとなってきます。この発想法は、コンサルタントにも必要な能力なのですが、おそらく同書の執筆においては、旧日本軍の各戦局の失敗事例を過不足なく詰め込んでおいて、それを抽象化して分析したのだろうと思うと、アイデア発想法の好例であるともいえると思います。「環境への過剰適応」というアイデアは、きっとこれらの事例の「詰め込み」、「煮込み」、そして「ひらめき」という順番をたぐってたどり着いたのかな?と考えると、いろいろ示唆に富んだ本だなとあらためて思いました。

人間同士の戦いの本質を突く!『クラウゼビッツの戦略思考』

クラウゼビッツといえば『戦争論』です。戦略というコンセプトを体系化した書籍として有名なのですが、書き直している最中に死んでしまったので、あちこち未完成で内容も矛盾しているところが多くとても難解です。その『戦争論』をビジネス向けにわかりやすく解説してくれたのがこの本で、書いたのはBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)という会社です。同社は世界的な戦略コンサルティングの大手企業として有名ですよね。

では、あちこち矛盾しているのにどうしてこの本が有名なのでしょう?それは、未完成であることとか矛盾していることとかの批判をものともしないほど、戦略のコンセプトを赤裸々に示すことに成功しているからです。
かつては、いや今でも、戦いには必ず勝てる法則のようなものがある!と言う人は必ずいます。たしかにそんな法則があればとっても魅力的ですよね。だってその法則さえわかれば、誰だって必ず成功できるんですから!でもクラウゼビッツは違います。簡単に言えってしまえば、クラウゼビッツはそんな魅力的な言葉に惑わされることなく「戦う相手が人間である以上、必勝法なんてあるわけないよね?!」と言いきった人物なのです。
つまり、相手が自分とおなじ人間なんだから、たとえ正確に相手の行動を読んだとしても、相手だって同じようにこちらの行動を読んでいるかもしれないわけです。しかも、いったん戦いが始まったら予想外のことがたくさんあって、はじめに考えていたこととは全然違うことをやってしまうことも多く、あらかじめ先を読むことすら意味がなくなってしまうことがよくあります。そんな中、戦略が果たす役割はいったい何か?それをクラウゼビッツは示唆しているわけです。いや、たしかに示唆しているかもしれませんが、明確な答えは提示しません。なぜでしょうか?それは、もし答えを提示してしまうと、それが法則になってしまって自己矛盾を起こしてしまうからです。
だから、クラウゼビッツは「天才」とか「摩擦」とか「霧」とかいう、戦略を取り巻くコンセプトやパーツを解説することで戦略の本質をあぶりだし、あとは実務家の手にゆだねるわけです。この潔さが『戦略論』の難解さを超えて、クラウゼビッツの名前を超一流の位置に押し上げたのだと思います。

戦争とビジネスを比較して語ることに賛否両論がありますが、私は戦争もビジネスも人間が競争しているという点ではまったく同じだと思います。ビジネスでは顧客やライバル企業がいて、お互いに先を読みながら読みきれず、新しいことを考えたりしながら生存競争をしています。もし必ず勝てる法則があるのであれば、誰でも勝負に勝てるはずです。しかし、みんなが勝負に勝ってしまうと、だれも負けない状態になってしまいます。これは「勝負にはかならず勝者と敗者がいる」という、絶対動かせない事実に矛盾してしまうわけです。
戦争もビジネスも結局は人がやるものであって、組織やシステムが戦うわけではありません。そういう意味で、意思決定の難しさと重要さを再認識できる本でもあります。
成功したい気持ちが先走ると、どうしても優れた企業をマネしようとしたくなりますが、マネするだけでは絶対に勝てませんし、逆に成功している企業では勝ちパターンやしくみ作りの完成度を高めることに目が行き勝ちになって、ライバル企業の想定外の反応に迅速に対応できなくなってしまったりもします。安易に業界の勝ちパターンに乗っかったり、フレームワークなどで手っ取り早く勝つ法則を見つけようとするのではなく、地に足をつけて勝負事の相互作用の本質を常に意識することが重要だと教えてくれる本なのです。

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