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思考停止ワードになっていませんか?「顧客の声に耳を傾けましょう」は正しいのか?

      2017/11/10

唐突ですが、最近社内でしきりに「顧客の声を集めろ」とか「顧客に聞いてみろ」ということが叫ばれています。
ドラッカーやコトラー、レビットなどを代表としたマーケティング関連のビジネス書でも、顧客の声が大切だということが言われていますが、では「顧客の声に耳を傾けましょう」は正しいのでしょうか?本当にそうなのでしょうか?

今回は、大ベストセラー 『イノベーションのジレンマ』と『失敗の本質』の共通メッセージを交えて、この問題について述べてみたいと思います。

顧客の声に耳を傾けようとする背景と実際

そもそも、顧客の声を集めるということは、現時点での市場の課題意識と要望を調べるということです。その結果をもって、顧客の真のニーズを提供できるように、商品を改善したり社内の意識を変えていこうという活動や行動のことですよね。
要は、外部環境の変化に適応しようよという考え方です。

顧客のニーズが多様化し、変化し続ける現在の市場環境ではまさにその通りですし、もっとも早く環境に適応することができた会社が、有利な立場にたてるはずです。

しかし実際はどうでしょうか?
顧客ニーズを聞き、どのライバル企業よりもいち早く市場に出した結果、一時は市場シェアを獲得したとしても、それが簡単に真似されてしまってレッドオーシャンに突入し利益がでない事業になっていく事例は山のようにありますし、顧客の声を徹底的に聞いて開発した商品がまったく売れないことだってザラです。
なぜ、正しいことをやっているのに、このようなことが起きてしまうのでしょうか?

表面的な答えは、すぐにでもいくつか見つかるでしょう。
たとえば、市場調査しとたきにヒアリングした顧客が、現実に商品を使用したり購入したときの状況を正確に想定できないことが原因だったりします。あるいは、特定のお客さまにだけは非常に評価される商品でも、他の大多数のお客さまには見向きもされない商品になってしまうということも良く聞かれる話です。
ただ、これらの答えは、実に表層的な答えに過ぎません。より本質的な原因を見極める必要があるのです。

「顧客の声」が、メンタルブロックになっていませんか?

そもそも「顧客の声に耳を傾けましょう」というテーゼには、いくつかの前提があります。
それは、顧客が常に正しい答えを持っていること、ニーズは顧客からしか生まれないということです。
本当にそう信じ込んでいいのでしょうか?このような考え方では、「顧客の声に耳を傾けましょう」というテーゼは「顧客のいうことを聞いていればいい」とか「顧客の期待にこたえなければならない」という、自分たちの意図や競争している土俵を無視した、一元的なメッセージに置き換えられてしまいます。

つまり、「顧客が常に正しい答えを持っている」ということは、言い換えると「自分たちが提供したいと考えている価値よりも、顧客が求めている価値のほうが優れている」ということであって、自らの意思や意図がまったく無視されるのです。かならずしも顧客は本質的なニーズに気づいていません。機能やデザインの改善といったレベルでは事足りても、新しい付加価値を提供するような新規事業の企画には無力です。

「ニーズは顧客からしか生まれない」ということは、言い換えると「現在の顧客の悩みや期待がすべてだ」という考えといえるでしょう。実際には、企業は、市場に驚きやインパクトを与えることで新しい市場を作ることができます。SONYのウォークマンが良い例です。市場は企業が作り出すことができるのです。市場を作るという意図だけは、顧客の声にどれだけ耳を傾けても生まれてきません。

私は、このメッセージの置き換えと一元的で妄信的な発想こそが、まさにメンタルブロックを生み出しているのではないかと思います。

『イノベーションのジレンマ』と『失敗の本質』の共通メッセージ = 環境への過剰適応

本来、追求すべきなのは、顧客のニーズを聞くことではありません。
自社の製品やサービスを顧客に購入し続けてもらい、継続的に利益をあげることであるはずです。
ということは、まず最初に「どういう製品を提供することで、どういった価値を届けるか」といった自分自身の意思や意図があり、続いて「それは利益を上げることができるのか」という課題がでてくるはずです。
利益を出し続けるには戦略が必要です。
現時点での顧客の声やニーズを満たすことが、将来的にも利益を出し続けるのか、ライバル企業の製品やサービスよりも自社の製品やサービスを継続して選んでもらえるのか?といった長期的な戦略です。顧客の声を聞く前に決定すべきことは山ほどあるはずです。

顧客の声を聞きすぎる(またはメンタルブロックに犯されていると)と、こういった視点での検討がおろそかになってしまいます。
つまり、現時点での環境に適応しようとし過ぎるあまり、急激な環境の変化に対応でなかったり、自ら環境の変化を起こす能力が失われてしまうのです。
このような症状を「環境への過剰適応」といいます。
顧客の声や気持ちを重視しすぎる優秀な会社ほど、この環境への過剰適応を起こしやすいといわれているのです。

ちなみに、環境への過剰適応が招く失敗例を扱ってベストセラーになった書籍があります。
それは『イノベーションのジレンマ』と『失敗の本質』です。
二つとも超有名な書籍なのでご存知の方も多いと思いますが、戦略を身につけるうえでは必読書だと思います。興味があればぜひ読んでみてください。
相手の環境への過剰適応を逆手にとって成功した例を取り扱った良書もあります。『逆転の競争戦略』という本です。こちらも興味があればぜひ読んでみてください。

顧客の声は信じてはいけない

こういった問題点をわかった上で、「顧客の声を鵜呑みにするな」ということも同時によく言われることですが、一度顧客に聞いてしまうと、なんだかそれが正しいと思ってしまうので、これはこれで結構難しいことです。
ヒアリングした顧客への感情移入とか、市場調査にかけた時間や工数に対する「もったいない」というサンクコスト効果だとか、無意識のうちに起こってしまう心理的な影響を払拭することは至難の業です。
そもそも、鵜呑みにしない顧客の声を集めること自体が自己矛盾を感じてしまいます。
顧客は、あなたの会社のために働いているわけでもないし、利用している商品のプロフェッショナルでもないのです。

それでは、結局「顧客の声に耳を傾けましょう」は正しいの?間違いなの?という問いに対して、どのような解があるのでしょうか?または、これからいったい何を信じればいいのでしょうか?

結局は「顧客の声は信じてはいけない」のだと思います。
ただ、「顧客ニーズを満たす必要なんかない」というふうに捕らえられるといけないので、もうすこし補足すると、もうすこし自分の意図を信じましょうということです。
自分のアイデアに自信がありすぎて市場ニーズを無視したり、顧客の行動や購入基準を無視して、自己満足の商品やサービスをつくってもいいということではありません。
顧客の声を聞きすぎて、一元的で盲目的な商品開発や事業企画はやってはいけないということです。

たしかに、顧客の声を聞くということには、そういった自己中心的な商品開発にクギを刺す効果はあると思いますが、『イノベーションのジレンマ』でも述べられているように、今現在ニーズがない商品やサービスでも、自ら用途を作り出したりニーズを作り出したりすることで、顧客の声を忠実に聞いてきた優良企業を駆逐することができることがあるのです。
顧客の声を聞いてしまったがために、ライバル企業との競争に勝ち生き残るチャンスを逃してしまっては本末転倒です。

こういったチャンスを逃さず、厳しい生存環境を生き抜くためには、顧客の声ではなく、むしろ文脈を意識した戦略の立案が必要だといわれています。
つまり、過去の技術革新の変遷、競争の推移、顧客行動の変化、法律や規制の動きなどを踏まえたうえで、自分自身の商品に対するポリシーや意図がそれらに対してどのようなインパクトを与えるのか、といった環境変化と競争の背景への理解が重要なのです。
これらの環境の変化は(とくにライバル企業に真似されず、新たな価値を市場に提供できるのかどうかは)、どれだけ顧客の声を集めてみても、答えはでてきません。あくまでも自分自身の文脈理解と意図に依拠するべき課題なのです。
つまり、「たとえ顧客の声を聞いたとしても信じない。信じるのは自分の判断だ。」という信念が必要なのだと思います。

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